月次試算表の前期比較をAIで下書きする実務手順|増減要因の仮説出しと検証

二つの帳簿と虫眼鏡、鉛筆を持つ小さなロボットと確認する人の手が並ぶ机 AI実務ガイド
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結論:月次試算表の「前期比較と増減要因の仮説出し」は、AIに下書きさせて人が検証する

月次試算表の初期分析では、生成AI(文章や表を作るAI)を「仮説の下書き係」として使えます。前期と当期の比較表を整え、機密を伏せ、条件をはっきり書いて指示すれば、増減の要約と要因の仮説を短時間で出させることができます。ただし、AIの出力は参考情報です。最終判断と異常値の確認は、人間が行う必要があります 3, 6, 8。

この記事で分かることは次の4つです。

  • AIに渡す比較データの作り方(粒度のそろえ方と、二段構えの渡し方)
  • 情報漏えいを防ぐ設定と、データの渡し方
  • そのまま使える指示文(プロンプト)の型
  • AIの出力の確かめ方、うまくいかない場面と対処、小さく試して改善する進め方
担当者とAIの2レーンで、比較表作成と匿名化を担当者が行い、AIが増減要約と仮説を出し、担当者が深掘りデータを追加、AIが再分析、最後に担当者が事実確認して結論をまとめる流れ
図1 AIが担うのは要約と仮説の下書きまでで、事実確認と結論は人が行います。
出典: 月次分析/経営指標よりも役立つ比較分析「中小企業の管理会計」初めて学ぶ実践講座 | ZEIKEN / ChatGPTで財務分析を自動化|再現性の高いプロンプト例と入力形式、法人利用のポイント – A

前提:対象の業務と、用意するもの

対象は、経理・管理部門が毎月行う月次試算表の初期分析です。具体的には、前期比較と増減要因の仮説出しを指します。前期比較とは、当期実績を前期実績と比べて、前年と違う今年のトレンドをつかむことです。予算を立てていない会社でも、前期実績は必ずあるため比較対象にできます 1。また中小企業は会社ごとの仕組みの個性が強く、他社と比べる経営指標はあまり意味がないことが多いとされます。そのため、自社の前期や前月との比較が基本になります 1。

用意するものは次のとおりです。

  1. 会計システムから出力した、当期と前期の比較表 1
  2. 部門別・商品別などの補助科目データ、または表計算ソフトで別に管理している明細(得意先別売上など) 1
  3. 生成AIのチャットツール。出典ではChatGPTを例に説明しています 6, 7
  4. 社内の情報管理ルールの確認。決算書の情報は機密性が高いため、運用ルールを整える必要があります 8

手順1:AIに渡す比較データを「同じ粒度」でそろえる

比較が成り立つには、2つの条件があります。①数値を細分化できること、②細分化した粒度(区分の細かさ)が前期と当期で同じであることです 1。たとえば当期は商品別、前期は部門別というように区分がずれていると、差異の原因を追えません。

一方で、実務の損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)は、勘定科目が数十行から百行規模になります。これをそのまま貼ると、入力量の上限で途中で切れたり、細目に埋もれて分析が浅くなったりします 6。そこで、まず大分類で渡し、詳細は後から足す二段構えにします。

  1. 会計システムから前期・当期の比較表を出力する 1
  2. 売上高・売上原価・販管費・営業利益などの大分類に丸めた表を作る 6
  3. 部門別・商品別の明細は、前期・当期で同じ区分になっているかを確認し、別ファイルに分けて取っておく 1
  4. 複数年度を扱う場合は、全期間を一度に渡さず、3期分ずつに区切る 6

作成例(1回目に渡す大分類の表。数値は架空の例です)

項目 当期 前期
売上高 12,000 10,500
売上原価 8,100 6,900
販管費 3,000 2,800
営業利益 900 800

手順2:情報漏えいを防ぐ設定をしてから、データを渡す

AIに入力したデータは外部サーバーに送信されます。そのため、決算データを不用意に入力すると漏えいのリスクがあります 8。データを渡す前に、次の手順で設定と加工を済ませます。

  1. 学習をオフにする(個人向けプランのChatGPTの場合):Web版でプロフィールアイコンをクリックし、「設定」→「データコントロール」と進み、「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにします。この設定はアカウント全体に適用されます 6。
  2. 匿名化する:社名や、会社を特定できる詳細な数値を伏せるか、データの一部を削除します 8。
  3. 渡し方を選ぶ:スプレッドシートの共有リンクを直接読ませる方法は避けます。閲覧権限の設定によっては、意図しない範囲まで公開される可能性があるためです。必要な部分をテキストでコピーするか、CSVファイルに書き出してアップロードします 6。PDFのアップロードや、手で入力する方法も使えます 7。
  4. 組織で使う場合の環境を検討する:ChatGPT Enterpriseなど、社内で管理された専用環境の利用も選択肢です 7, 8。

注意点が2つあります。学習をオフにしても、会話はチャット履歴に残ります。また、回答に高評価・低評価などのフィードバックを送ると、その会話全体が学習に使われる場合があります。財務データを扱う会話では、フィードバックを送らないようにします 6。

情報漏えいに関する落とし穴4つと対処。共有リンクは避けてCSVやテキストで渡す、社名は伏せる、フィードバックは送らない、履歴は残る点に注意
図2 学習をオフにしても、渡し方とフィードバック次第で情報が広がる点に注意します。
出典: ChatGPTで財務分析を自動化|再現性の高いプロンプト例と入力形式、法人利用のポイント – A / ChatGPTで決算書分析を効率化するプロンプト5選 – Taskhub / ChatGPTで財務諸表の分析をする方法を解説!プロンプト例も紹介 | AI総合研究所

手順3:指示文の型を使って、増減分析と仮説を出させる

指示文には、次の4つを明記します。①役割、②目的、③出力形式、④制約です。特に「入力データにない数値は使わない」と書くと、もっともらしい作り話を抑えられます。「情報が不足していれば先に質問する」と書くと、誤った前提のまま分析が進むのを防げます 6。

  1. 役割と目的を書く(例:「製造業を担当する財務アナリスト」「役員説明資料の下書き」) 6
  2. 出力形式を指定する(結論は3行以内、根拠は「項目/当期/前期/増減率」の表) 6
  3. 制約を書く(データにない数値は使わない、不足があれば質問を先に返す) 6
  4. 手順1で作った大分類の表を貼り付けて送る
  5. 数値の比較だけで終わった場合は、「示唆も加えてください」と追加で指示する 7

指示文の例(出典の型を、月次の前期比較向けに調整したもの)

あなたは製造業を担当する財務アナリストです。
社内の月次会議向け資料の下書きを作成する目的で、以下の月次試算表(当期と前期)を比較してください。

出力形式:
- 結論を3行以内で先に提示
- 根拠となる数値を表形式で(項目/当期/前期/増減率)
- 増減が大きい項目について、要因の仮説と、確認すべき資料を挙げる

制約:
- 入力データにない数値は使用しないでください
- 判断に必要な情報が不足している場合は、質問を先に返してください

【データ】
(ここに匿名化した大分類の表を貼り付け)

業界平均や市場データを一緒に入力すると、自社の強みと弱みを相対的に比べさせることもできます。その場合は、「参照した年度と出典を明記する」という制約も加えます 6。

手順4:差異の大きい科目だけを深掘りし、人が検証する

AIの仮説は、確認の出発点にすぎません。差異の大きい科目に絞って詳細データを追加し、原因を絞り込みます。前期比較で実態を追っていくと、当期の記帳の誤りが見つかることもあります 1。

  1. AIの出力から、差異の大きい科目を1〜3個選ぶ
  2. その科目の補助科目データ(部門別・商品別など)を、次の会話で追加して渡す 1, 6
  3. AIが示した仮説を、伝票・契約書・現場への聞き取りなどで、1つずつ事実確認する
  4. 会計処理の誤りがないかを確認する。たとえば多額の修繕費が計上されている場合は、本来は固定資産に計上すべきものを経費処理していないかを見ます 1
  5. 確認した事実をもとに、人が結論をまとめる

確認のしかた:AIの出力をチェックする基準

AIは単純な増減率の計算は得意です。一方で、経営戦略や業界構造、会計方針の違いを踏まえない、単純化された分析になるおそれがあります 8。出力を受け取ったら、次の順で確認します。

  1. 表の当期・前期の数値が、元データと一致しているか(転記ミスや、手入力時の誤りがないか) 7
  2. 増減率を、表計算ソフトで検算する
  3. 入力していない数値や事実が混ざっていないか
  4. 仮説が自社の実情(会計方針の変更、一時的な取引など)と合っているか 8
  5. 異常値の判断や企業固有のリスク評価を、財務担当者や専門家が二重チェックしたか 8

うまくいかない場面と対処

場面 起きること 対処
全明細を一度に貼った 途中で切れる、分析が浅い 6 大分類から渡し、気になる科目だけを後から追加する 6
前期と当期の区分が違う 差異の原因を追えない 1 補助科目や管理表を同じ粒度にそろえ直す 1
もっともらしい数値が出る 根拠のない仮説が混ざる 「データにない数値は使わない」と制約を書く 6
会計方針の変更などが反映されない 的外れな解釈になる 8 背景情報を補足して渡し、人が最終判断する 8
無料版でアップロードできなくなった 回数制限に達した 7 手入力と併用する。分析の頻度に応じて有料版も検討する 7

小さく試して振り返る(PDCA)

出典では、まず1件だけ基本的な分析を試し、その後に指示文のテンプレートを整えて運用する、段階的な進め方が紹介されています 7。これを月次業務に当てはめると、次のようになります。

  1. Plan(計画):翌月の試算表で、大分類の前期比較を1回だけ試すと決める。確認役の担当者も決めておく。
  2. Do(実行):手順1〜4のとおりに実施する。使った指示文は保存しておく。
  3. Check(評価):AIの仮説のうち、事実確認で当たっていたもの・外れていたものを記録する。転記ミスの有無や、かかった時間も記録する。
  4. Act(改善):外れが多かった原因(データの粒度、背景情報の不足、指示の曖昧さ)に合わせて、テンプレートを直す。翌月はその改善版で試す。
Plan、Do、Check、Actの4段階が月次で繰り返される循環図
図3 当たり外れを記録してテンプレートを直し、翌月に改善版で試す流れを繰り返します。

効果が出るのは、比較データの粒度がそろっていて、人による検証の手間を省かない場合です。AIは分析の下書きを速くする道具であり、判断の責任は人が持つ前提で使ってください 8。

出典・参考

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